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大阪地方裁判所 昭和30年(レ)157号 判決 1956年11月30日

事実

X1はYが昭和二九年三月八日A宛に振り出した金額三〇、〇〇〇円、満期同年五月二九日の約束手形一通を、X2はYが同年三月二四日A宛に振り出した金額五〇、〇〇〇円、満期同年六月三日の約束手形一通を、それぞれAから右振出日の二、三日後に、手形割引により裏書譲渡を受けて、適法に手形を呈示して支払を求めたが、拒絶されたので、各手形金額と訴状送達後の法定利息の支払を求めた。一審大阪簡裁ではYは口頭弁論期日に出頭せずなんらの抗弁も出さず敗訴した。控訴書において、Yは「本件二通の手形を振り出したことは認める。Yは昭和二八年一二月Aに対しスーパークリーナー一台の製作納入方を代金二二〇、〇〇〇円、納入期日昭和二九年一月末日の約束で註文し、同年三月上旬になつて代金を増額し、納入期日を同月末日と変更し、前渡金の一部支払のために本件二通の手形を振り出した。この手形は期日に現品を納入できないときは返還を受ける約定であつた。その後更に納入期日は同年五月末日に延期したがAは同月一八日未完成の現品をBに債務の担保として引き渡し、Yに対する履行を不能にしたから、Aは、特約に基いて、本件手形を返還する義務がある。X1X2はAの金主であり、本件手形の性質と前記特約の存在を知りながら、裏書譲渡を受けたもので、悪意の取得者というべきであるから、Yには本件手形の支払義務はない。」と抗弁し、この点の証人尋問を申請したが、裁判所は次の理由で、そのまま、控訴棄却の判決をした。

理由

仮にYの主張するとおり、本件手形はYがAに発註した機械の製作納入代金の前渡金の一部支払のため振り出したもので、Aにおいて期日に機械を納入できないときは返還を受ける約定であり、X1X2が右事情を知つて本件手形を取得したものであるとし、AはYの主張するとおりの事情で期日に機械を納入できなかつたものであるとしても、単にそれだけでは、X1X2は手形法第一七条但書にいわゆる「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ手形を取得シタルトキ」に該当しない。X1X2に悪意の抗弁が成立するためには、本件手形を取得するにあたり、右の事情のほかAが期日に機械の納入できないであろうことを予想していたことを要するのであるから、この点の主張を欠くYの右抗弁はそれ自体理由がない。

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